【江戸時代の合理的指導者】千葉周作の北辰一刀流

千葉周作

 江戸時代に近代的剣術の始まりとも言える北辰一刀流を創設した剣術家。それまでの、天狗や神に秘法を授かったとかいう表現を使ったり単純な剣術の手を装飾して神秘的な名称にしたりするだけなど、形ばかりを重んじる剣術の指導のやり方を改めて合理的な指導を行った。また指導方式としてもそれまで主流であった危険もある組太刀の稽古ではなく、防具を使う竹刀稽古を本格的に採用した。合理的指導により剣術の指導の効率はそれまでと比べて飛躍的に向上した。当時周作の弟子は3000人を超えたと言われ、その指導の合理性は現代剣道にも大きな影響を与えた。

神秘性を使う当時の古流のウソ

 千葉周作と言えば剣道の達人というイメージでもちろん大変強かったらしいですが、それよりも彼の大きな功績は、それまで神秘性などを用いて論理性を重視していなかった剣術の指導に合理性を導入したことにあります。

 たとえば司馬遼太郎氏の「北斗の人」では「地摺星眼(じずりせいがん)」という構えはどんなものか聞いてきた弟子に周作が、そんなものは伝説にすぎず「ない」という趣旨のことを語ったという話が出てきます。

免許皆伝といった剣術の奥義を師匠が弟子に伝えていく際に権威を作って、有難みがあるようにするため等、それまでの古流にはいろいろ合理的でない面があったようです。

 周作はこれを改めすべての面で合理的な観点から考えた剣術の指導を行ったため、彼の創設した北辰一刀流は瞬く間に広がり弟子もたくさん集まったのです。

それ剣は瞬息、心技力の一致

 彼の言葉として有名な「それ剣は瞬息、心技力の一致」という言葉は彼の剣術に対する合理性の精神をよく表しています。

「瞬息」というのは 「一度瞬きをし、一度息をする間の時間」のことを指します。

 剣というものは、この短い間にどれだけ太刀のスピードを上げるかということと、心技力のバランスが取れていることに尽きるということを言っているものと解釈できます。

 「心の眼で見ればわかる」といった類の指導や山中に籠って「仙人から教えを受けなければ勝てない」というようなウソをすべて排除して、体育技能的なものの一つとして単純に科学的に剣術を初めて考えた人ということだと思います。

あらゆる分野で最終的には合理性に基づく考え方が勝る

 剣術(剣道)指導だけに限らず、合理性に基づく考え方が最終的には合理的でない考え方に勝るというのは当然のことです。

 しかしなかなかそれが世に表れてこないのは、私たちが別のことにとらわれていて、非合理なやり方をしていることに気づかないことが多いと思いからだと思います。

 周作は自分が学び免許をもらった一刀流の構えの名前や内容のない皆伝書などに疑問を持ち、師匠と対立した末に新流派を立ち上げます。

 しかし実際には周作とは異なり、疑問を持っても「そういうものか」と流してしまう人の方が多いのではないでしょうか。

 だから、私たちも普段から合理性のあるやり方というものに意識をもっていれば違ってくるのかもしれません。

 周作は自分の稽古の際にも、どうしたら勝てるかについて先入観なく合理的な方法を考えて練習をしていたため、流派の非合理な点についても気づくことができたのではないかと思います。

 これは、学習においても全く同じことが言えます。

 合理性の精神で「このやり方でいいのだろうか」という疑問を常に持つということが、周作が新しい方法を築き上げたのと同様、わたしたちの新しい一歩のためにはとても大切です。

 今後も皆さんのお役にたつ情報をアップしていきます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA