高校生の頃、弓道部に所属していました。
入部してすぐに射形が良いとほめられて、嬉しくなって朝5時に起きて弓道場に行き、夜は練習して21時に帰宅するような無茶な練習をしていたら、すぐにほぼ思った所に矢が当たるようになりました。
内心は得意の絶頂で、いずれ全国大会へ行けるに違いないなどと思っていました。
しかしある日突然、的に矢が当たらなくなりました。
弓道には早気(はやけ)といういわゆるスランプになる病気のような症状があります。見事その早気(はやけ)になってしまったのです。最近のスポーツ心理学用語で言えばイップスに近いものです。
この早気という症状は、的に矢を当てたいという心からくる本当に厄介な症状で、特に的中率が高い射手がかかることが多い症状です。的に当たる快感を知っているために、「少しでも早く、早く」と矢を放すようになってしまい、そのうちきちんとした形(会:かい と言います)になる前に矢を放してしまうようになります。
最初は要領で何とか当てていますが、そのうちに全く当たらなくなり矢を射ることもできなくなってしまう恐ろしい症状です。
弓道を習った際に当時の先生から、繰り返し「平常心」の大切さを教わりました。「平常心」は、よく「一枚の板の上をまっすぐ進むのは容易だが、千尋の谷にその板をかけて歩けと言われたら途端にできなくなる」というたとえで説明されます。人間の心理で、特別に意識をすると物事が急に難しくなってしまうということがその背景にあります。
早気はまさに平常心を欠いて結果にばかり目を向けた射手がかかる病気だったのです。
射る形がきれいだったので、何とか高校で弓道二段まで取得しましたが、早気は結局直らなかったので的中率も上がらず、夢だった全国大会は本当に夢のまま終わりました。
さて、ここからが本題になります。
生徒を指導していると、準備して学習をしているときにはかなり高い正答率を出しているのに、テストになって結果を見ると普段では考えられないような低い得点を取ってしまう生徒がいます。
現場の感覚では、大小はあるもののかなりの割合でこういう生徒がいると感じます。
テスト結果を強く思うがあまり、テストの会場でのアウトプットの段階で混乱をしてしまって実力を出し切れないのです。
まさに平常心を欠いてしまうということだと思われます。
テストで結果を出すためには、①良好な学習習慣 ②インプット ③内容面のアウトプットに加えて、④アウトプットをスムーズに行えるメンタル状況が必要だと考えます。
そして、非常に多くの人が②だけが勉強で、そこを頑張れば結果が出ると勘違いをしているように感じます。
「平常心」を維持するということには、冒頭の早気の例でも明らかなように、やる気があって明確な目標に向けて頑張るほど、それが難しくなるというジレンマがあります。
高校時代「平常心」を欠いて失敗している私ですが、だからこそ、結果にばかり気が行くと「平常心」は持てないことをよく知っています。
私は現場では、やるべきことだけひたすらにやり、目の前の物事にのみ集中する。すると結果は向こうからやってくる、そういうイメージが大切なんだと思います。
このイメージがあれぱ、「平常心」とまでは言わなくても動揺による失敗が防止できるように思います。
日々学習するときは結果を強く思い描く必要があります。しかしテスト現場では逆にそれをしてはいけないということです。ここにコツがあります。
思ったよりテストの結果や受験で結果が良かった人の話を聞くと、テストが終わりくらいになった頃に「お腹すいたな」とか「これが終わったら〇〇しよう」とか思っていたなんてこともよく聞きます。もちろん日々の学習をしっかりやれている場合の話ですが、結果を過剰に意識しなかったという点が共通しています。
だから、鉢巻を巻いてテスト本番に臨む、なんてアニメにあるようなイメージは間違っているということですね。
当日は「静かな気持ちで、落ち着いて」ということがやはり正しいアドバイスということになるでしょうか。