三遍稽古
昔の落語の稽古では、三遍稽古というしきたりがあったようです。
まず、師匠と弟子が向かい合って座り、師匠が教えようとする噺を1回話します。
弟子はメモを取ったりすることも許されず、それをじっと聞いて目と耳で覚えます。
これを3回(3日間)行って、それで弟子は4日目には自分で噺をできないといけないとされました。
これが三遍稽古です。
これを聞くとずいぶん厳しい稽古だなと感じます。
ビデオやCDなどがある現在からは考えられないようなやり方です。
しかし、この三遍稽古には実は良い点がたくさんあるのです。
集中力を高める状況
このようなやり方の場合、まず回数が決められていることで、弟子は最初から「何としても3回でマスターする」という強い意志を持つことができます。
だから自然に集中して聴くことができます。
また、師匠と向かい合わせというのも緊張感があり、これも集中できる状況です。
師匠が寄席で話しているのを聞いてやるのとは、集中度が違うことでしょう。
弟子を教育するためには合理的な方法だったように思います。
1回やってまた次の日に2回目というのも、その間にあれこれ思い出しながら覚えることができるので、記憶が順に積み重なるように定着していきます。
このようなやり方により、効果の面でも記憶を短期のものにしないということが期待できたのかもしれません。
イメージを自分の中で膨らませて覚えることは後に効用がある
三遍稽古の一番良いことは、何回も音を聞いてコピーするのと違い師匠の話を思い出しながら自宅で覚える形になるため、
頭の中に空想のイメージが出来上がり、丸暗記よりも使える記憶になるということです。
たとえば「長屋のネコ」という言葉を覚えようとするとします。
音を聞いてコピーしようとすると、どうしても現実の音に意識がいくためイメージはそんなに膨らみません。
しかし、自宅で師匠の声や表情を思い浮かべながら「長屋のネコ」などと自分で暗唱していると
「どんな長屋か?」「時間帯は朝かな?」「ネコの模様や感じはどんな風かな?」
といったことが自然と浮かんでくるのではないでしょうか。
あたかも読書で、言葉から自分のイメージを膨らませるのと似ています。
実際落語家の方にも、このやり方は丸暗記よりも自分なりの噺を創り上げられる良い教育法だと言ってみえる方がいます。
現実の師匠の声という音から離れて、自分の頭の中にその場面の世界を構築して覚えられるのが大きなメリットなのだと思います。
暗記が苦手な人はイメージ作りがうまくできないことが多い
暗記をする際に、字面ばかりを追ってなかなか覚えられないという人は、言葉から発せられるイメージを上手くつかみきれていないまま覚えようとしてしまっている場合があります。
たとえば「アンブレラ・かさ」と覚えようとするときに、「かさ」という言葉と「アンブレラ」という言葉を紙面の上でつなげているだけで
実際に「かさ」を思い浮かべて、その場面に「アンブレラ」を当てはめながら記憶していくということが上手くできていないのです。
これが口頭だと「かさのことってアンブレラって言うんだよ」という話で、「ああ、あの『かさ』が『アンブレラ』か」とイメージ化して意識をするので覚えやすくなります。
暗記が苦手な生徒が、口頭でやると結構覚えられるのはこのためです。
ただ綴りまでは無理ですが…。
このように何かを記憶する際には、単純な音や文字だけではなく、それを含む現実のイメージを一緒に覚えていくということが効果があるのです。
暗記で困った場合には、語呂合わせとかを使う前に、まずイメージをしっかり頭に浮かべているかを振り返るようにすると良いと思います。
人間は機械ではないので、単なる文字の羅列や数字の並びをそのまま暗記するのには向いていません。
言葉のイメージ化が重要なのです。
三遍稽古を復活させることが良いとまでは言いませんが、学習についての非常に良いヒントが隠されていることは確かです。
今後も皆さんのお役に立つ情報をアップしていきます。