美化語
敬語の種類として「美化語」というものがあります。
これは言葉を上品にして他とのバランスを取るために使われる敬語の一種で
以前はこの分類はなく、敬語は「尊敬語、謙譲語、丁寧語」だったのですが、
割と最近に、なぜか種類が増えて「尊敬語、謙譲語、丁重語、丁寧語、美化語」の分類になり、登場したものです。
たとえば
「お菓子」は単に「菓子」と言えば良いものですが
「お」が付くことで少し上品なイメージになります。
そして実際に敬語での会話以外でも、普通に「お菓子を食べよう」というような言い方で使われていますね。
このように「尊敬語や謙譲語」の使われる状況で話される「お」や「ご」が付く言葉ではなくても、「お」や「ご」が付くところに美化語の特徴があります。
一応ジャンルとしては、広義の丁寧語の一種とされています。
尊敬語や謙譲語の「お」「ご」とは異なる
尊敬語でも「お」や「ご」を使う言葉はたくさんあります。
たとえば、「お手紙を差し上げます」というように
尊敬語を使う場面で使われる「お手紙」は美化語ではありません。
尊敬の対象とすべき相手が文脈の中におり、その相手を持ち上げる流れの中で「お」を付けているからです。
「お忙しいところありがとうございます」と言うような場合もそうです。
これは相手を持ち上げて相手の行動について敬う表現ですから、「お忙しい」は美化語ではなく尊敬語の表現となります。
同様に謙譲語でも、こういうものはあります。
たとえば「ご案内いたします」の「ご案内」などは
自分がへりくだって自分の動作の「案内する」に「ご」を付けるものだと言えますから、
美化語ではなく謙譲語の表現ということになります。
これに対して美化語は、語は同じであってもその用法はこれらとは一線を画したものです。
それは、先ほどの「お菓子」のように、どのような状況でも「お」や「ご」が付いてくるということに特徴があります。
特に相手を持ち上げる尊敬の表現の中でなくても
自分がへりくだる謙譲の表現の中でなくても使われます。
「お酒」や「ご飯」などがこれにあたります。
日常生活で意外に多く使っているので、探してみるのも面白いかもしれません。
外来語と美化語
よく敬語の解説サイトを見たり、敬語についての本を読むと
「外来語に「お」「ご」を付ける表現は誤り」と書かれているものが多いです。
基本の決まりはその通りです。
例えばテレビやコップを「おテレビ」「おコップ」などと言ってはさすがに不自然ですね。
元々カタカナ言葉は敬語としての表現にジャストフィットした語感になりにくいこともあり、由来的に「お」「ご」をつけて話される頻度が低かったのだと思います。
しかし実社会では、言葉によっては割と普通に外来語にも「お」を付ける言い方がされています。
「おトイレ」
「おタバコ」
「おズボン」
「おソース」
「おビール」
これはすべて外来語ですので、杓子定規な解釈では
正しい美化語ではなく、尊敬表現や敬語表現で登場する場合以外は、すべて敬語として誤りということになります。
でもどうでしょうか?
会話を円滑にして上品な言い方をしたいあまり、こういう表現をされても嫌な気分になんてなることはないのではないでしょうか。
これまでも何回か書いてきましたが
敬語はそもそもが、「相手を不快な気持ちにさせない」という「思いやり」を背景にして発生してきた日本の素晴らしい文化ですから
それが外来語として伝わってきた当初ならともかく
今や完全な日本語として古くから伝わってきたこれらの言葉を、「外来語だから誤り」と言い切ることは、相当おかしなことのように感じます。
そしてたとえば「タバコ」なんて漢字で普通に「煙草」と書くわけで、外来語じゃないと思っている人もかなり多いのではないかと思います。
「バテレン言葉は美化しちゃいけない」なんて感じですから、この決まりは結構不自然な気がしています。
格式を重んじる高級な料亭とかで食事をする際だって、きっと女将さんが
「お客さんにおタバコは喫煙室で吸うように言ってね」とか、普通に従業員に言っていると思います。
言葉は文化そのものであり、時とともに人とともに進化していくものだと思います。
一般には、堂々と少なくとも「おトイレ」「お煙草」については普通に使って良いのではないかと思います。
聞いた方もむしろ「丁寧な方だな」って思って上品の気分になりますから。
まあどうしても心配な方は、入社試験とか営業で取引先に行ったときには使わない方が良いでしょうか。
トイレの場所がわからないときは、トイレについては正しくは「お手洗い」と言えばいいと思いますが、
果たして日本の会社員の中で一体どれだけの人が「『おトイレ』は誤った表現」と知っているのかという話です。
そんなことをあれこれ考えていること自体が、かなり馬鹿馬鹿しいような気もします。
今後も皆さんのお役に立つ情報をアップしていきます。