焦らず順に対策をしていった。
10年近く前の話になると思います。
その生徒は初め「全部よくわからないです」としきりに言っていました。
中学1年の頃は勉強が楽しかったのですが、色んなことに時間をかけすぎてしまっているうちに、各教科でわからないことが出てきて、いつの間にかテストでも点数が取れなくなってきてしまい、塾へ通う決意をしたのでした。
「何とかしたい」という強い気持ちが本人に感じられる生徒でした。
後で振り返るとこのことが一番大きかったのかも知れません。私たちの話をとにかく食い入るような目をして聞いていました。
たとえば数学の解法を説明すると、集中してそれを実際の問題で試し始めて、やがてできるようになるのですが
「そろそろ次の問題へ行こうか?」と言っても「先生もう少し」と言って自分が納得するまで続けていたのが印象的でした。
そしてわからない事については、妥協という事をせずに聞いてきました。
この様子を見て、時間がかかり過ぎて勉強が分からなくなってしまったというその理由が分かりました。
要するに本人のスピードに学校の進みがあっていなかったのです(これが私たちの発想です。逆ではありません)
そこで本人とどう進めていくかについて十分に話をしました。
「今のやり方だときっと時間がかかる。だけど集中力があるから必ず結果が出てくる。それを待って頑張ることができるか?」という問いに、彼は「はい」と答えました。
そして彼の快進撃が始まりました。最初は数学だったと思います。他の科目は振るわなかったのですが、まず数学だけ飛びぬけて点数が上がり始めました。
でも私たちも彼も焦りませんでした。「順番にできることを1つずつ増やそう」と言って、得意な単元を少しずつ作っていきました。それが良かったのだと思います。
数学の他の科目も次第に結果が出始め、やがて全体の順位が一気に30位とか、時には50位とかの上昇幅で上がるようになりました。
そして入塾して2年後、入塾当初の順位に比べて、何と110位以上の幅での順位上昇という奇跡を彼は達成したのです。
これだけ急激に順位を上げることができたのは、焦らず順に対策を上手に行ったのが功を奏したということもありますが、彼の「わかるようになりたい」という気持ちから生じた集中力の結果だと今も思っています。
集中力のすごい威力の裏には?
集中力というものは才能のように見えますが、意外にそうではないと私は思っています。
と言うのは、たとえば楽しいゲームをやっていたり面白いドラマを見ている時、どんな人でも、それに集中してしまってトイレに立つのすら忘れてしまうことがあったりするからです。
「面白そう」「知りたい」そんな好奇心や興味こそが集中力を生むのだと思います。学習で言えば「わかる楽しさ」と言うものだと思います。
彼が高い集中力を持っていた背景には、いろいろな物事に対する好奇心や興味の強さがあったように思います。
よく私は学習の話の延長で「宇宙の不思議さ」とか「量子力学の世界」のような話を短くすることがあるのですが、他の誰よりもその話に興味を示したのは彼でした。
実は「この世界で最も小さなものは何だろう?原子よりも小さいものがあるんだよ」と言うような話をしても、「ふーん」というような顔をしてあまり関心を示さない生徒も少なくありません。
そんな中キラキラ目を輝かせて「先生『ひも』ってあの『ひも』ですか?」なんて質問をしてきたときの、彼の生き生きとした表情を今も覚えています。*プランクスケールでのひも理論の話です。
そしてこの集中力というものは、実に大きな威力を持ちます。およそあらゆる能力の向上に集中力というものは関わっているからです。
スポーツでも学問でも一流の人はすべて高い集中力をもっているのはもちろんですが、成し遂げられそうにない目標を楽々達成してしまうのも、集中力の成せる業であったということはよくあることです。
わかる楽しさ
勉強では、「学校の成績を上げる」ということが眼前にテーマとしてあるので、生徒本人も周りの人もどうしても目の前のことに一喜一憂しがちです。
下手をすると、「わかる必要はないからとにかく覚えよう」なんて言いきる指導者もいますが、そんなやり方は当面の点数を上げることができても、やがて破綻します。暗記の上手な学習者にはなれても、そこから先に必ずペースダウンが待っています。
何よりも「わかる楽しさ」を軽視した学習は、恐ろしいことに学習への興味自体をすぐに失わせてしまいます。
たとえば1冊の知識が満載の本があるとして、「さあこれを全部丸暗記しなさい」と言ってお経のように字面を覚えさせても、普通の人は、おそらく3日目には嫌になってしまうでしょう。
しかし「ここに書いてあることは面白いからゆっくり読んでみて。感想を聞かせて」と言って3日後に感想を聞いた場合、それが真に面白い内容であったならば、無理に暗記を命じなくてもかなりの量を自然に覚えていたりするものです。好きなミュージシャンの名前を努力せずに覚えられるように…。
人間の頭脳というのは、パソコンのCPU(中央演算処理装置)とは違います。というよりもっとずっと複雑で優秀です。それは決して無味乾燥な暗記マシーンなどではなく、クリエーティブな能力を備えた素晴らしいものなのです。
学習を考える際には、そういう事を考え方のベースにおいて進めていくのがとても大切なのだと思います。
ぜひ一度皆さんも考えてみてください。
今後も皆さんのお役に立つ情報をアップしていきます。