【慇懃と慇懃無礼】日本語の難しさと素晴らしさ

慇懃(いんぎん)

 「慇懃」という言葉があります。礼儀正しく丁寧な様子や態度を言います。

 ただ、後で述べる「慇懃無礼」(いんぎんぶれい)の方が一般にはよく使われているので、単に「慇懃」と言う形では使われないと思っている人も多いかもしれません。

しかし礼儀正しい人や態度への誉め言葉として使われる言葉として「慇懃」という言い回しはあるのです。

たとえば

「彼のあくまでも慇懃な姿勢には胸を打たれた」

「その店員さんは慇懃に私に応対してくださった」

というような使い方をします。

難しい漢字を使いますが、他人の美徳を称える美しい日本語だと思います。

慇懃無礼(いんぎんぶれい)

 これに対して「慇懃無礼」は、丁寧で礼儀正し過ぎてかえって失礼なことを言います。

この言葉はその意味は分かるのですが、実際にどういうのがそれにあたるのかがちょっとわかりにくい言葉ですね。

少し例を挙げてみたいと思います。

「お客様はこの地域になくてはならない重要な会社にお勤めの方でございますから、さぞ普段からあらゆることに精通してみえて。こういうことも熟知されているかと思います。私などがご意見をするのもはばかられますが、ラジエターというのはラジオではありません。お気を悪くされたならば、謹んでお詫び申し上げますが…」

というようなのはどうでしょうか。

こんなことを言われたら、きっと怒り出す人がいるはずですね。

「お客さん、ラジエターはラジオじゃないですよ。なかなか面白いことをおっしゃりますね。ははは」と言う方がよっぽど礼儀にかなっていますね。

対人接客は何も丁寧に言いさえすれば良いという訳ではないのです。

「お似合いですよ」

「いや、どうかな。僕は顔が大きいのでこの帽子はちょっと似合わないような気がするんだが・・・」

「いいえ、お顔が大きいなんてとんでもございません。お顔立ちが整っていてハリウッドスターのようでございます。出会う方が皆さん振り返って行くのが目に浮かびますわ」

(馬鹿にしているだろう・・・)

こういうのを慇懃無礼と言うのです。

これなどは極端な例ですが

①丁寧すぎる言い方をしているのに

②内心こちらを馬鹿にしている(あるいは見下しているような雰囲気がある)のが分かる

③全体として気持ちが入っていない

そんな場合には、丁寧であればあるほど不愉快になります。

慇懃無礼はそういう人が他人に感じる微妙な不快感を言葉にしたものであると言えます。

繊細で高度な日本語のニュアンス

 慇懃と慇懃無礼は、言葉だけで言えば

「大変よくお似合いで素敵です」という同じ言葉になることも多いかと思いますが

その前後の会話であったり態度や様子、あるいは雰囲気が伴って

それが「とても慇懃でいい人」と「なんて慇懃無礼なんだ

というように分かれてしまうものだと言えます。

そういう微妙で高度な日本語のニュアンスは

私たちが長い歴史の中で人間関係をより円滑にしていけるように培ってきた大切な文化のように思います。

大事にしていきたいです。

でも、思いがけない反感を受けないように、くれぐれも「丁寧」と「丁寧すぎる」の区別には気を付けてください。

今後も皆さんのお役に立つ情報をアップしていきます。

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