1学期も後半
新しい年度が始まって早いものでもう2か月が経とうとしています。
数学の学習では多くの学校では、計算が中心とした学習をしていますが
来るべき試験では、「計算は得意だから高得点を目指そう」と思っている生徒も多いかも知れません。
逆に「私は考えるほうが好き。計算はミスが出てイヤ」なんて生徒もいますが
割合でいえばやはり計算では点を稼ぎたいという方が多いように思います。
しかし、そういう単純に見えそうな学習だからこそかえってひっかかるポイントというものがあります。
今回はそんな話です。
「式の計算」の学習
中学数学でも高校数学でも、年度の始まりは大抵「式の計算」(高校では「整式」)から入っていくのが通例です。
これは教科書自体がそういう作りになっていて、まず計算主体の学習(代数)をやって
その後に「関数」や「図形(幾何学)」や「資料整理(統計)」などに進んでいく形式の場合が多いです。
したがって「式の計算」については、中1から始まって高校でも毎年繰り返し学習をしていくことになっています。
ところが、「式の計算」の学習は、隣接する単元の「方程式」との取り違えが起きやすく、
中2中3ではそこで混乱してしまっている生徒がかなり出ます。
今回は、とても混乱しやすいこの二つの単元の違いについてのお話です。
「式の計算」とは何か
中学で学習する「式の計算」というのは、例えばこんな問題を解答する学習です。
次の計算をしなさい。 3(x+2)
分配法則を使って計算をして
3x+6 が正解となります。
こういう問題は一目見てやるべきことがわかるので、比較的混乱は生じにくいです。
しかし次の問題になると、かなりの数の生徒が誤った解答をします。
次の計算をしなさい。 0.3(x+2)
これも同じように分配法則を使って 0.3x+0.6 が正解なのですが、
3x+6 という解答や
x=2 とか x=-2 という解答が相次ぎます。
これらはすべて、「式の計算」と「方程式」との区別を誤っていることから生じるミスなのです。
「方程式」の学習との違い
方程式の学習では、小数が問題に出てきた際には、その解法として両辺に10とか100などの同じ数をかけて整数にして計算をするという手法を学びます。
たとえば
0.3x=0.6 を解きなさい。
であれば、両辺に10をかけて
3x =6 として計算します。
だからその解答は x=2 ということになります。
おそらく生徒は、「小数が出てきたら10倍」ということだけ覚えこんでいるため
方程式ではないのに、10倍をしたり
等号(=)がないのにあることにして、方程式のような計算をしてしまって、上記のようなミスしていると思われます。
基本とは何か
よく勉強をするときに
「基本が大切」と言われます。
しかし中学で学習する内容については
わかりやすく生徒に「やり方」を理解させるということがまず優先して
一番大本の考え方については
あまり教科書には詳しくは表現されていない事があるように感じます。
ここで大本の考え方となる「基本」とは何でしょうか?
それは「式」というものの意味です。
例を挙げて説明します。
私は、生徒にこんな質問をすることがあります。
私 「『3 × 6 』 これって何?」
生徒 「式です」
私 「じゃあ答えは?」
生徒 「18です」
私 「『3X』って何?」
生徒 「わかりません」
私 「式だよ」
生徒 「?」
こんなやりとりになります。
高校生でもこれが「式」であるときちんと言える生徒はそんなに多くないと思います。
中1の文字式の学習で
「『3 × X』は×を書かずに『3X』と書く」という決まりを習います。
でも「これがいったい何の学習をやっているのか」については、はっきり真正面から理解しないまま進んでしまうことが実に多いと思います。
もちろん教科書には単元名として「文字式」と書いてありますし、「式の表現の方法」というような記述はありますが
「式」というもの自体を掘り下げて考えるという時間はあまりないため、
生徒たちは「とにかく計算できればいい」と思って決まりだけ覚えようとするのです。
正しく言えば、
「『3 × X』という文字を使った『式』では、小学校まで習っていた『式の書き方』とは異なり、中学校からは×を書かずに『3X』と書くようにしましょう」
という「式」についての学習をしているのです。
たとえば、
「八百屋で1袋6個入っている梨の袋を3つ買った。式を作りなさい」
という場合に、式は3×6 となりますが
「八百屋で1袋X個入っている梨の袋を3つ買った。式を作りなさい」
という場合には、式は3×X となります。
これを決まりにして書いたものが「3X」だから、
「3X」は「式」なのです。
しかし多くの生徒は、これを単に「計算」とか「計算のパーツ」という風に思っています。
方程式との違い
また生徒に質問をします。
「じゃあ『3x=18』というのは何?」
これについてはだいたいの生徒が答えられます。
「方程式です」
「どこが違うの?」
「イコールがあります」
「そうだね。他には?」
「解を求めることができます」
ここで解とは、xに当てはまる数のことです。
解を求めると x=6となります。
これに対して、上記で出てきた小数の式は、イコールがない「式」に過ぎないので「計算しなさい」と言われても
それは「式を簡単にしなさい」と言う意味に過ぎません。
等式の性質(両辺に同じ数を書けても式の関係は変わらない)は使えないので、勝手に10倍してはだめだし、
解も求められないということになりますね。
ここまでくると、大半の生徒は「式の計算」と「方程式」の違いに気付きます。
つまり一番の「基本」である、「今何を勉強しているのか(ここでは「式」)」を意識しないで学習をして、やり方だけ浅く覚えているので、
違うことをやる方程式の学習内容と取り違えて、ミスをしてしまうのです。
学習においては
全体像とその中の位置づけというのをしっかり把握していないと
少し横断的な出題がされると対応ができなくなってしまうという例です。
「要は何?」
学習をしていくときに難易度が上がりやり方が複雑になればなるほど
その学習は一体何をやっているのかということの認識が重要になります。
高校入試でも
難易度の高い問題で混乱しそうになった場合
「これは長さを求めている問題だから、三平方の定理や相似か」
「これは角度を求めている問題だから、内角・外角・円周角や平行線と角か」
といった大きな視点を持っていることが切り抜けるためのファーストステップになることがよくあります。
いわゆる体系的な理解が大切ということになりますが、これは何も難しいことではありません。
学習をする際に、いつも「要は何?」という意識を持っていれば、
「あれ、今やっているのって『要は何の勉強?』」
という疑問が湧いてきて、それが自然と深い理解を助けてくれるはずです。
また、もう一つ有益な方法があります。
これは高校入試だけでなく大学入試や国家試験の学習などでも役に立つやり方ですが
教科書(基本書)の「目次」をしっかり読むのです。
学習をしている際に時々「目次」を見て
今自分がやっている内容を確認します。
今回の例で言えば「式の計算」の後に「方程式」に関する単元があるのがわかります。
初めて見た人ならば、当然
「どちらも『式』って書いてある勉強なのに、単元が分かれているのはなぜだろう」
と考えるはずですね。
そうすれば違いを知ろうとして、自然と体系的な理解ができていくことになります。
成績が非常に良い生徒は、意識してかあるいは無意識にか、よく「目次」を見ています。
今後も皆さんのお役にたつ情報をアップしていきます。