読み取りの力
「読み取りの力をつけたい」
多くの保護者の方がそう思っていると思いますが、じゃあどうすればいいのかと言えば、なかなか簡単ではありません。
まず本をたくさん読むという手があります。
実はこれが一番効果的な方法なのですが、2つ問題点があります。
それは「時間がかかること」と、「本を読もうとしない」という事です。
前者について言えば、今日小学生が本をたくさん読みだしたとして、実際の問題の正答率がすぐ上がるかと言えば、そうはいかないでしょう。
それまで本を読まなかったのでわからなかった語彙や言葉のつながりが一気にわかるようになって、それで問題を見たら「意外にわかるぞ」となった場合でも、半年くらいの時間は必要になると思います。
また読み取り力がついていない子どもは、当然のことながら、本を読んでも自分では意味が取れない事が多いので、本が目の前にあって「さあ読みなさい」と言っても、すぐ嫌になってしまう可能性もあります。
一番いいのは早い時期から一緒に親子で本を読むという事ですが、保護者の方も忙しい現代ではなかなかそれもままなりません。
しかし一番良い方法なのは間違いがなく、逆に言えば学校で問題など解かなくても、読書が大好きな生徒ならば読み取りはOKという場合も多いので、本を読む習慣はぜひつけていきたいところです。
これについてはまた改めて記事を上げたいと思いますが、「本を読みたい」という気持ちにさせることがポイントになってくるかと思います。
今回はもう少し、即戦力的な話です。実際の問題においてなぜ生徒が正しい答えを出すことができないのかを考えてみます。
なぜ全くピント外れの答えになってしまうのか?
小学生でときどき見かけるのですが、文章の読み取り問題に全くピント外れの答えを書いてしまう生徒がいます。
たとえばこうです。
「Aは、そのときBとCがこちらへやってくるのを見たので、
急いで家に帰ろうとしました。
まさかCが走って来て自分に声をかけてくれるとは思っていなかったからです。
『A君、今日いっしょにぼくの家でゲームやらないか。』
Cはそう話しかけてきました。
Bもニコニコしています。Aは安心しました。」
という文章があったとします。
問いが「Aは、BとCがこちらにやってくるのを見て、どうしようとしたか」というものであれば、割と正解をする生徒は多いと思います。
「急いで家に帰ろうとした」という答えは、問いかけに対して、ほぼそのまま解答となる部分を抜き出しても正解になるからです。
しかし問いが「なぜAは安心したのか」というものになると、途端に正答率は下がります。
「Cはそう話しかけてきました。Bもニコニコしています」などという答えがたくさん出ます。
以前書いたことがありますが、何となく解答っぽいところを抜き出すことを解答と思っているから、このようなことになるのだと思うのですが、全く答えになっていませんね。
読解力がないと言ってしまえば簡単ですが、
なぜこのようなことになるのか、実は現場で指導をしていてずっと不思議に思っていました。
口頭で聞くと正面から正しい答えを言える生徒
どうしてかというと、同じ文章を読んであげて同じような問いかけを口頭ですると
こんな解答ではなく、生徒が正答またはそれに近い回答をすることができることがあるからです。
「C君が家に来ていいって言って、B君も笑ってたからじゃないの」というようなことをしっかり答えるのです。
そこでわかったことは、生徒の多くは答えがわからないというよりも、
①出題の内容を、文章だとうまく把握できないということと
②答え方も「書く」という形だと、上手にすることができないということです。
俗に言われている「読解力のないこと」の正体は実はここにあります。
対策はたくさん問題を解くことではない
そこで考えられる対策としては、次のようなやり方が効果的だと思われます。
まず①の点については、
問題文を生徒に読ませて、「どういうことを聞いているの?」と口頭で答えさせるのです。
そうすると、生徒は最初は「よくわからない」と言いますが、そのうち段々字面ではなく、要は何を聞いているかという質問の要旨の部分を説明できるようになってきます。
そこまでいけば流れを変えていくのにあと一歩だと思います。
次に②の点については、表現力の問題もあるので簡単ではありませんが、
これもまず口頭で言ってもらってから、それを書くような形をとれば割と早く改善がされることがあります。
ポイントは、口頭の会話とリンクさせて、難しいことをやっているという本人の先入観を外すことにあると思います。
学校の先生の中には、読解ができない生徒は語彙が貧困なので、言葉をたくさん覚えるべきとか
読み込みが足りないので、問題をたくさんやってというような対策をする先生も見かけます。
しかし、「生徒がどうしてそんな答えを書くのか」ということに思いを馳せない限り、なかなか状況は改善されないと思います。
また学校で返されたテストの添削を見ると、解答書通りの詳しく難しい説明がそのまま書いてあったりして
「これではどんどん読み取りが苦手になるだけなのに」と思ったりすることもあります。
読み取りの意味が分かるまでは新しい問題をやらない方がよい
実は読み取りの力をつけていく段階で、それを阻止するのが
次々に行われる小学校のテストです。
上記のような特別の対策をしていて、生徒がようやく
「ああ、これはこういうことを聞いているのか」ということがわかりかけてきたところで、
テストがやってきてしまいます。
本当はやり方を丁寧に知って、正しい解答を自分もできるということがわかってから
徐々に問題を増やしていくのが理想なのですが、
そこに学校のテストがあり、上手く答えられない生徒は
またピントの外れた答えを書くように後戻りしてしまうことが、実に多いように思います。
ご家庭でもテストとなると、結果が出るので焦ってしまい
読み取りの基礎練習を計画してやっていても、そんなことは忘れてしまって動揺するのですが
読み取りの力がついてない状態の生徒は、100点満点で30点くらいしか取れない事もざらにあります。
でもそれは現在の状況としては仕方がないのです。やり方をほぼわかっていないのですから・・・。
そんな時は点数をどうこうするよりも、まずやり方をきちんと覚えることが先なのに
つい「こんな点数を取ってしまった。どうしたら良いでしょうか」という話になってしまいます。
長期的に軌道修正をする計画を話し合ったすぐ後でも、テストがあるとこういう相談がされることは多いのです。
気持ちは誠に理解できるのですが、目の前のテストのために本来の軌道修正が出来なくなってしまう事の方が心配です。
ただ、生徒の状況に関わらずテストをするのは学校の先生ですので、保護者はどうしようもありません。
保護者の方がこういう意識になったとしても、それはやむを得ない面があります。
学校の先生は間違いなく「今この生徒にこの問題を出しても到底答えられない」ということは、はっきりわかっていると思います。
わかっているのに、難しい問題を「時期が来たから」と言って、一律に順にやらせていくのは、本当にその生徒のためになるのでしょうか?
学校の授業の進行ということで、やむを得ないところもあるのかもしれませんが
中学のように一律の定期テストがあるというわけではなく、小学校の先生には大きな裁量が与えられているはずなので、もう少し何か工夫があってもいい気がします。
小学校で読解力が低いまま中学生になった生徒が、どれだけ大変なことになるのかを、学校の先生はもう少し想像するべきです。
読み取りの力は徐々についてくる
私の経験では、読み取りについて上記のような練習を、本人が我慢して丁寧にやっていると
ある時期から急に、読み取りの問題のコツを生徒がつかみ始めた実感を持てるようになります。
「読解力がない」と言われている状態は、「やり方がつかめていないだけ」の場合が多いので、決して恒久的なものではありません。
工夫次第で改善の途は結構あります。
繰り返しになりますが、中学受験などを目指す場合は別として、小学生の国語についてはあまり目の前のテストの点数に一喜一憂すべきではないと思います。
読み取り力がしっかりついてくれば、いつでも高得点は取れるようになります。
一生懸命学校のテストの復習を繰り返したり、学校の単元テストの得点に一喜一憂するよりも
読解の基本ややり方をきちんと一から繰り返す方がまず先です。
青雲学院では小中高一貫指導をしていますが、小学校の時読解に不安があった生徒が、中3あたりで国語を得意にしているのを目にすることもあります。
やり方の丁寧な改善は、焦らずやれば必ず結果が表れる時が来るのです。
なかなか結果が出てない場合は、「目の前のテストの結果などに気を取られて、長期的な対策をすることを忘れていないか」もう一度振り返ってみてください。
「急がば回れ」というのは、読解力をつける学習には、一番ピッタリの言葉なのです。
焦るのは逆効果です。
今後も皆さまのお役に立つ情報をアップしていきます。