ナンバー2
政治を行う組織ではトップはもちろん重要ですが、その補佐役になるナンバー2の役割は大きいものです。
現在の日本の行政で言えば、トップが内閣総理大臣だとして、実質的に見てナンバー2は誰でしょうか?
副総理がおかれている場合は副総理ということになるかも知れませんが、多くの場合は官房長官というのが外部から見た場合のナンバー2かも知れません。
もちろん見た目の話なので、裏で誰が権力を動かしているかと言えば、実は官僚の事務次官だったりするかも知れないですが、そのあたりは私たちには計り知れない話になるのでまた別です。
歴史におけるナンバー2
しかし歴史の勉強では意外にこのナンバー2を知っておくと、政治の動きの要(かなめ)が分かったりします。
たとえば鎌倉幕府の将軍に次ぐナンバー2は執権と言われる地位ですが、初代執権北条時政は頼朝と共に幕府を打ち立てただけでなく、頼朝の死後政治の実権を握ったのは有名な話です。
また承久の乱後に御成敗式目を発議したのも執権であった北条泰時でしたし、元寇を防いだのは執権北条時宗でした。
まあ政治の表舞台で一番活躍するのが宰相の地位にある執権なので当たり前と言えば当たり前ですが、彼らの動きを見ることでその時代の政治の主な流れはすべてつかめます。
その意味ではナンバー2を意識するのは歴史学習においては重要なことだと言えます。
幕府の比較が意外にできない
歴史で幕府について学びますが、「幕府の名前をすべて言ってみなさい」と質問しても、すべて言える生徒はなかなかいません。
答えは簡単です。鎌倉幕府・室町幕府・江戸幕府です。
実はこの3つの幕府については、大変学習がやりやすいところだと私は思っています。
なぜかというと、きれいに比較できる内容がわりとたくさんあるからです。
以前の記事でも書きましたが、記憶をグループでひとかたまりのつながりにして覚えていく際には、対比しやすいものをグループにしていくということがかなり有効です。
3つの幕府の学習はまさにこれにぴったりと当てはまるのです。
幕府の仕組みは比較すると覚えやすい
幕府を興した人物である源頼朝・足利尊氏・徳川家康の比較などは当然ですが、
幕府の仕組み(政治体制)についても統治組織の図が、3つの幕府について似た形で教科書などにも大抵掲載がされています。
学習の要領のよい生徒であれば、この3つの図を見比べて
「しめた!覚えやすいぞ」と思うはずです。
この中でまず一番テストなどで聞かれるのはもちろん、将軍の補佐役(No.2の役職名)でしょう。
鎌倉から順に、「執権・管領・老中(大老)」ということになり、これも比較がしやすいです。
もっとも、生徒にこれを3つ言わせても、上記の幕府名と同様、3つともスラスラと答えられる生徒は残念ながら少ないです。
学校では順にゆっくりと学習していくので、大体3つの幕府を比較して見てみるという作業を生徒は行いません。
ほんの少しの手間で全然記憶しやすくなるのに、そういうことをやろうとしないというか、やると記憶が定着しやすいということを知らないのだと思います。
だから3つ並べて言えないのです。
歴史学習で名称を覚えることの意味
よく「歴史の勉強が面白くない」という生徒がいますが、今の学校の歴史学習は基本的に暗記がメインになっていて「その歴史から何を学ぶのか」ということや「歴史のドラマ・人間模様」のようなものは軽視されている傾向があるので、無理からぬところです。
そしてそれに加えて階級闘争史観に基づく記述が随所にみられて、「民衆は政治によっていかに虐げられて大変だったか」というような箇所の強調があり過ぎます。これでは日本人として歴史を誇りをもって学ぶというわけにはなかなかいかない気もします。
さらに今や有名になった自虐史観(日本は悪い事をした国)という方向の記述もバランスを欠いて強調されているものもあり、客観的事実よりも若干思想性のあるものになっているのも事実です。
そうすると教師たちは自然「政治的にならないように教えなくては」という制動がかかり、その結果今の歴史教育が、「とりあえず知識を付けてあげよう」という暗記主体の歴史になってしまってきたのだと思います。
だから歴史が名称を覚えるだけの科目に成り下がっているのには、大きな理由があるのです。
ただだからと言って暗記を軽視して受験に臨むというわけにはいきませんから、覚えていくことはやって行かねばなりません。
個別的な歴史ストーリーならば教科書をベースにしても膨らませる事は可能ですから、そういう方向で学習を進めていくのが良いかも知れません。
「執権はどんなポジション?」と言うような切り口は、いわばそういう縦断的な歴史ストーリーへの入り口と考えるといいと思います。
思想と切り離しても、そういうまとめ的なコンセプトで進めば歴史は十分に楽しくなります。
以下では普通生徒たちがまったく興味を持てず、そのためにいくらやっても覚えられない項目について、背景を考えることで覚えやすくなる例をちょっとご紹介します。
理由を考えると細かい名前も覚えることができる
幕府の仕組みの中で、少しマイナーではありますがテストに出ることもある機関名として、なかなか覚えられないものがあります。
それは「六波羅探題」「鎌倉府」「京都所司代」「大阪城代」などです。
どれも地名が入っていますが(六波羅は京都の地名)何となくピント来ないのでしょう。何回やっても覚えられないという生徒がいます。
しかしこれも3つの幕府を比較して、それぞれの設置された理由を考えると実に簡単に覚えることができます。
京都六波羅のスパイ機関
まず「六波羅探題」は鎌倉幕府の機関ですが、その目的は京都で朝廷が承久の乱を起こしたのに懲りて、二度と朝廷が乱を起こさないように監視をするため設置されたものです。
生徒によく言うのですが「探題」はいわゆるスパイです。
鎌倉幕府が遠く離れた京都の朝廷が勝手なことをしないように、「六波羅」にスパイを置いたものなのです。
鎌倉の復活を防ぐ鎌倉府
次に「鎌倉府」は室町幕府の機関ですが、その目的は六波羅探題とよく似ています。
室町幕府は鎌倉幕府と異なり、本拠地が京都になりましたので、
京都から遠く離れた鎌倉で、鎌倉幕府の頃の力に持っていた勢力が復活して乱を起こしては困るため、監視と統制のために設置をしたものです。
豊臣家と外様大名の乱を防ぐ京都所司代・大阪城代
同様に「京都所司代」「大阪城代」は江戸幕府の時代に
徳川家康が幕府を開く前政権を有していた豊臣家が力を盛り返して、外様大名となった旧来の豊臣家の家臣たちと結託して幕府に反乱を起こすことを恐れて、
豊臣秀吉が築いた巨大な大阪城と、京都の朝廷と西国大名(外様)を監視するために設置した機関です。
このようにその時々の幕府が、それまで力を有していた勢力の反乱を遠い地から警戒して設置したことが分かれば、地名も自然と覚えられますので
暗記をすると意識しなくても頭に記憶が残ります。
さらにイメージとしては、(実際には政治を仕切っていた補佐役がそう思っていたのだとは思いますが)
「将軍がどんなことを心配したのかな?」ということを試験現場で考えれば記憶もよみがえりやすいのではないかと思います。
以上のように単純暗記だけを念頭に置けば覚えにくい歴史の名称も、すこし背景を思い描いたり、縦断的にナンバー2ということでまとめたりすることで、学習がやりやすくなる例はたくさんあります。
こういうことが実は歴史が嫌いでなくなるためのコツになるのではないかと思います。
一度考えてみると良いですね。
今後も皆さんのお役に立つ情報をアップしていきます。