人一倍
よく「人の倍努力する」とか「人一倍」というような言い方がされますが、割と多くの人がこれを聞いて一度は「あれ?」っと疑問を持った経験があるかと思います。
「倍」と言えば、普通に考えると「1倍」で「二倍と言ったら「2倍」になるという事を、私たちは知っているからです。
たとえば十進法では基礎となる数字(基数)は0~9の整数になりますが、位取りを考えると一、十、百、千、万・・・と続いていきますから、一倍はつまりその数と同じであるという意味になるのが自然で、二倍からがその数を複数回重ねた数になっていきます。
英語の2倍3倍
英語でも同様な事が言えます。
2倍3倍と言えば、twice、three times や double、tripleが使われますが、そこでは1倍が「同じ」を表すことがそもそもの前提になっています(1倍=one timeという表現もあります)
そこでは「倍」が文脈によって「2倍」であったり「1倍=同じ」であったりするようなことはないのです。
ではなぜ私たちにはこういうおかしな違和感があるのでしょうか?
層倍
我が国では古くから「層倍(そうばい)」という言葉があります。
層倍は西洋数学とは異なり、一倍と言えば×2を示すというような考え方の言葉で、
単に「層倍」と言えば2倍を示すことになります。
同様に我が国では「倍」と言う表現、そして「一倍」という表現をすれば×2の意味で通じる文化があったようです。
ちなみに層倍については、こんな言葉があります。
「魚三層倍、呉服五層倍、花八層倍、薬九層倍、百姓百層倍、坊主丸儲け、按摩摑み取り」
浮世草子『風流茶人気質』に出てくる言葉のようですが、江戸時代に原価に対して儲けがどれくらいかを表した言葉で、この中の「薬九層倍:薬は原価に対して9倍の値段で売れる」「坊主丸儲け:坊主は丸々すべて儲けになる」という二つはかなり有名ですね。
明治時代に強引に変えられた
さまざまな我が国古来の文化は、明治維新後海外からの新しい文化の導入に伴い大きく変化して、物によっては強引に変えられてきたのはご承知の通りですが、
この「倍」のカウント方法も西洋数学の考え方の導入に伴い、「倍」は1倍(同じ)のことという形で統一されたようです。
しかし「人一倍:人の一倍=つまり日本の古来の数え方では人の2倍」という言葉はそのままの意味で残ったのでしょう。だからややこしい話になったのです。
また単に「倍」と言った時には、昔からの「一倍=つまり2倍」という意味が人々にまだ浸透しているため、同じと言う意味ではなく×2という意味で通じているということが言えます。
私たちが何気に使っている言葉でも、何か違和感があることがありますが、こうやって深く調べてみると、色々な歴史があって大変面白いですね。
今後も皆さんのお役に立つ情報をアップしていきます。