項羽
漢の国を創設した劉邦と天下を争って敗れた楚の武将。始皇帝で有名な秦を滅ぼすための軍を率いて大きな勢力を作り西楚の覇王を名乗った。軍事的には圧倒的に有利であったにもかかわらず、最終的には劉邦の漢に敗れてしまう。最期の時に述べられた「四面楚歌」の言葉は、現在も周囲が敵ばかりで助けがないことを表す言葉として使われている。
対照的な項羽と劉邦
項羽は名門の出身で、ただ武勇に優れ勇猛であっただけでなく、部下に対しては優しく、感情の量が大きくて、人を引きつける力を持つ武将だったと言われています。
そのため部下の統率力は高く、彭城の戦いでは、劉邦の率いる56万人の連合軍に、たった3万人で勝利したという記録が残っています。
一方劉邦は、旗揚げをする時にすでに40代で、もともとは地方で低い官職についていましたが、あまりまじめに仕事もせず、不良グループとつるんで遊んだりしながら暮らしていた一庶民に過ぎませんでした。
そして旗揚げ後も劉邦は、項羽との戦いで連戦連敗を繰り返し、負けては逃げての連続でした。そして、逃げる際には部下をののしったりして、あまり人格的に尊敬できるというようなタイプでもなかったようです。
劉邦の勝因
そんな劉邦がなぜ最終的には項羽に勝利することができたのでしょうか?
一番の要因は、項羽が有能な部下を適正に評価できず、不公平な人事を行ったことにあるとされています。 彭越、英布、陳平といった能力のある部下たちに次々に去られ、ついには、非常に優れた宰相の范増を信じられずに追放してしまいます。
そして、最も大きな失敗は、韓信という天才軍師を用いることができなかったことです。項羽の下では全く認めてもらえなかった韓信は、劉邦の下に走り、結局この韓信の軍事指揮能力により項羽は敗北に至ってしまったのです。
韓信は「背水の陣」の戦法を使ったことで有名な漢の軍師です。
他方劉邦は、自分には高い能力がないことを知っていました。そのため人の話を常によく聴き、能力が高い相手に対しては、本人が驚くくらいに重用をしました。韓信が良い例で、一部の反対を押し切り、劉邦は彼を早々に大将軍にしてしまいます。
敵であったことを気にもしません。この点あらゆる敵をすべて殲滅してしまった項羽とは好対照です。
また、彼の人事は公平でした。論功行賞についても部下と相談して適切に行われました。項羽のように独断で身内に有利に行うということがありませんでした。
たとえば、大将軍の1番の有力候補には、旗揚げ時から苦楽を共にしてきた義弟でもある樊噲がいましたが、劉邦は樊噲ではなく能力の高い韓信を抜擢したのです。
他にも色々な要因はあると思いますが、項羽が劉邦に勝てなかった最大の原因は、やはり公平を欠いたため、人がついてこなくなったというところにあったと思います。
公平の重要性はどの場面でも同じ
「公平」ということは、実にさまざまな場面で要求されます。親がその子である兄弟姉妹に接する場面、上司が部下に接する場面、教師が生徒を指導する場面など、公平に接することができたかどうかでが、その後の人間関係に大きな意味を持ってしまうことがあります。
「他人より低く見られたくない」という人の欲求を甘く考えて不公平な扱いをして失敗をする例は、項羽の例だけでなく現代社会でも後を絶ちません。本当に注意が必要です。
生徒指導の現場においては、特に形式的公平と実質的公平が問題になります。
たとえば、筆記具を忘れた生徒に対して、ある生徒だけ注意せず貸して、他の生徒には厳しく叱るというようなことは、形式的な基準が同じではないので許されないのは当たり前です。
しかし、A君の習熟度とB君の習熟度が違うのに、形だけ同じ内容のことをしないと不公平と考えて同じことをさせるのは、実質的には不公平です。それぞれに今必要なレベルのことに取り組んでもらうということこそが2人にとっての真の公平だからです。
授業形式には限界もある
厳しいことを言うようですが、学校という枠組みの中、黒板授業をやっていく従来の運営方法のみでは、この実質的公平を図るという部分でなかなか難しい限界があるように思います。
もちろん運用上、習熟度別クラス編成やティームティーチングなど色々な策があり、実際そういった取り組みをされている学校も多くなりました。
しかしながら現在でも、「授業についてこれない者は努力が足りない」という感覚だけで、授業を一定の高いレベルを基準にして進めているような方が一定数みえるように感じます。
大学入試に向けての進学校の授業ならそれもありかとは思いますが、小学校中学校においてそのやり方は、実質的公平の点で現実的ではないと思います。
私自身も含めて、およそ指導に携わる人間は、常に自分の指導が本当の意味で「公平」な指導になっているかどうかを振りかえってみる必要があると思います。
一人一人の習熟度に応じた指導を心がけていきたいと思います。大切な点を気付かさせて下さりありがとうございました。
何が公平ということは、生徒それぞれの習熟度をよく確認しないと難しいことでもありますね。
いつも一人一人のことをよく見て指導をしていくことは本当に大切だと思います。