化学の入り口はモル(mol)のマスター
高校で化学の学習を始めたとき、あるいは大学受験を前に化学を一から復習するとき
もっとも基本的な分野でありながら
「モル(mol)を含む計算がわからない」という生徒が本当にたくさんいます。
これは、モル(mol)という単位の意味がとてもとらえにくいことに原因があります。
「1molは6.02×1023という粒子の個数を表す」と言われても
「?」となって当たり前です。
さらに「モルを単位としてあらわした物質の量のことを『物質量』という」などと来れば初学者は混乱必須ですね。
導入の仕方や説明の仕方をもう少し考えれば、もっとわかり易くなるのにと思ったりします。
モルがこんなにもわかりにくいのは、
これまでに学習で出てきたいろいろな単位とは異なり、現実の生活などで実際に何かを測ったりするのに使われているものでなく
あくまでも計算などの場面でのみ登場する概念上の単位であるからではないかと思われます。
化学が得意という生徒もここはまず問題を解いて、その中でようやくなんとなくモルの意味がわかったという生徒が大半だと思います。
簡単にいうと
モルは化学の計算をやりやすくするために設けた、単純な仮想の「基準になる単位」に過ぎないのですが、
やたら公式やら例外などがたくさん出てくるので、難しいものと思い込んでしまうのだと思います。
モルは小学算数の九九のようなもの
しかしモルは化学の学習の基本中の基本です。
わかりにくいといってもここをスキップすることはできません。
小学生が九九をマスターして、そこからいろいろな計算をやっていくように
高校生はモルをマスターしてからようやく本当のスタートラインという感じです。
でも実際には生徒たちは、化学の計算問題の解説書とにらめっこして苦戦しています。
一体どうやってこのスタートライン前の難関を乗り越えたらよいのでしょうか。
ここからは例を挙げて説明します。
問題 1.00Lの希硫酸の中にH2SO4(硫酸)が490g含まれている場合のモル濃度を求めよ。
この解説として、(490/98)mol /1.00L という式が書かれることが普通です。これを計算すれば解答になりますが、分数で書いてあるのでわかりにくいです。
単純に計算としては490÷98÷1.00ということです。
でも、このような分数での説明を見ても初学者は意味がわかりません。苦手な生徒も大抵はここがわからないポイントになっています。
98が H2SO4 (硫酸)の分子量なのは何とかわかります。
原子量がHは1、Sは32、Oは16のため、1×2+32+16×4=98 なので分子全体の量を計算しているだけです。
しかし、490gを98という分子量で割るとなぜその答えがモル(mol )になるのかという点で多くの生徒は「?」となってしまいます。
実は、ここで解説には書いてない1つの重要な基本の考え方があります。
できる生徒はこれを当然の前提で考えますが、わからない生徒は多くの場合ここがあいまいです。
そしてそこを詳しく説明しているテキストは意外に少ない気がします。
書いてあっても何か難しい文字を使った公式で書いてあるので、何を言っているかということに気づかずここで化学の世界から離れて行ってしまう生徒もいます。
モルで混乱しないための決め手のキーワードとは?
それは
1mol=「原子量」g (または「分子量」g「式量」g)という考え方です。
詳しく言えば、モル質量は原子量や分子量、式量と一致するということになりますが
単純化した方が圧倒的にわかりやすいので、敢えてこう覚えます。(相対質量にはgをつけませんが、覚えやすく考えるために敢えてgの単位を使って覚えます)
たとえば硫黄(S)は原子量が32ですが、これに当てはめると、硫黄1molは32gということになります。
なぜそうなるかというと、最初に基準とした原子量12の炭素の質量が12gだからです。
簡単に言うと「そうなるように決めてあるから」と言えばよいでしょうか。
でも実はこの点もなかなか皆が納得できないポイントです。
ここも説明します。
炭素〔炭素12)の実際の質量は 1.993×10-23 gです。
化学の学者は、これを基準に他の原子も比較して相対質量というものを定めました。たとえば炭素のこの質量を12とすると水素は12分の1の重さなので1という具合です。以前は酸素16が基準だったようですが今は炭素12が基準です。
そしてその数字が基本的には原子番号になっているのです(*中性子数の違いによる質量数の違いについてはかえって話をわかりにくくしてしまうので敢えてここでは触れません)
このあたりに生徒が混乱する事情があることは間違いありません。
要するに長さの単位のmが、人があるとき「この長さを1mとする」と言って勝手に決めたものであるように、
モル(mol)も「人が勝手に決めた計算するときの基準の数字」ということが分かっていないために、生徒は混乱しているのだと思います。
だから上記の 1mol=「原子量」g というようなわかりやすい単純な基準を知らないと、何か特別な理論があるのではないかと疑って混乱が広がるのですね。
問題に戻ります。
硫酸は分子量が98ですので、硫酸1molは98gになります。
そうすると先ほどの490÷98の部分は、490gある硫酸が一体何モルだったか計算しているということがはっきりわかります。
実際にある490gの硫酸を1モル98gで割ればモル数が出るはずだからです。
1mol=「原子量」g(ここでは「分子量」g)というキーワードを介すれば、「何だ当たり前じゃないか」という話になるのです。
あとはモル濃度というものが、1Lあたりのモル数を計算するものなのでさらに1.00(L)で割れば解答になります。答えは5mol/Lです。
molをLで割るので、単位はmol/Lです。
解説書の謎の森は、分数をわり算にして読むことでクリアできる
このように1つの基本になる考え方をきちんと覚えておいて問題文を読めば、モルの計算は意外に簡単です。
しかしこのモル質量と物質量の関係は、上述したように化学のテキストでは公式の形で書いてあったりします。またさらに解説書は、多くの場合分数で詳しく書いてあることが多いです。
このことが化学への入り口を狭くして、化学を難しいものと思わせるようにしてしまっています。
分数のままで公式として考えるより、分数をわり算に変えて考え、実際に何を計算しているのか読み取ることが理解の上で非常に重要です。
また何回もお伝えしていますが、高校の化学も基本的には比で解決できる問題は多く、その場合も同様に考え方の基本をたどって出していくため混乱は生じにくくなります。しかも忘れにくいという利点もあります。
前回も書きましたが、たとえば
a / b = c / d という公式で「どうも意味がわからないなあ」と感じたら
a : b = c : d という形の比に置き換えてみると
一気に意味が分かるという場合が多いと思います。
公式の丸暗記でやっていった場合、少しひねって出題されると太刀打ちできないこともありますが、
このように比にしてみたりわり算に置き換えみたりして、考え方の筋道をたどって計算をする癖をつけておくと、そういった応用にも対応もしやすくなると思います。
ぜひお試しください。
今後も皆さんのお役に立つ情報をアップしていきます。