【素人の聞き手に何を伝えたいの?】「首長(しゅちょう・くびちょう)」「遺言(ゆいごん・いごん)」

 首長は「しゅちょう」では?

 私たちは日々、生徒に漢字の読み書きなども教えています。

中には読み方が難しい熟語もあります。

「出納」を「すいとう」と読んだり

以前お伝えした「熟字訓」などはその典型で

だからこそ「漢字は面白いな」と思ったりします。

 でもなかなか

完璧に読み書きをできるという事は難しいです。

さらに、漢字は奥が深いものです。

教える側にとっても、日々勉強だと思っています。

 ところで

最近、テレビやネットでの会話を聞いていると

「おやっ」と思われる漢字の読み方がされることああります。

以前大臣が

「未曽有の(みぞうの)」を「みぞうゆうの」と読んで話題になりましたが

誰にでもある、そんな読み間違いや勘違いはともかく

熟語について、意図的に違う読み方をしている人がいて、気になることがあります。

業界用語

 それはマスコミの人やお役人が、会話をする中で使っている業界用語だったりします。

一例を挙げます。

「首長」というのは、地方公共団体の長を指して「しゅちょう」と言いますが

何時頃からか

これを「くびちょう」と読む人が増えてきています。

 最初は驚きましたが

「市長」「首長」「主張」などが紛らわしいため

このような言い方をしているのだそうです。

「私立」と「市立」を聞き分けるため「わたくしりつ」「いちりつ」と読むのと同じような考え方のようです。

 しかし「私立」と「市立」は一般的に周知されている読み方ですが

「くびちょう」は、おそらく多くの人が知らない

一部の業界内での読み方に過ぎません。

これを当然のように、説明なしで

会話に入れている人は

「どういう意識でこれを使っているのかな」と思ったりします。

 「くびちょう」だと

今度は「組長」と聞き間違えることもありますから

紛らわしさから考えても、あまり間違い防止に効果がある読み方とも思えません。

 任意に、自分たちの社会内でだけ通用する言葉を

あたりまえのように、広く世間に向かって発信するというのもどうかなと思います。

 今後こういう読み方が、さらに広がっていくのかもしれませんが

「くびちょう」という言葉の響きも

何か良くないですね。

「クビになった代表者」のようにも聞こえます。

遺言「いごん」では×?

 また別の話になります。

「遺言」という言葉はよく知られている言葉ですが、学校の国語でも一般の読み方でも「ゆいごん」と読むのが普通です。

 ところが、法律を少しでも勉強したことがある人ならば常識ですが

法律学では、遺言は「いごん」と読みます。

 法的な効果の伴う被相続人の行う行為なら「いごん」で

漠然と亡くなる人が残した言葉なら「ゆいごん」というように判別できると言う考え方もありますが、

単に法律学上の遺言が「いごん」と読まれるという風に考えればよいでしょう。

 これは法学部に入った人であれば、いろはの「い」で習うことなので

もし法学部の学生でこれを「ゆいごん」と読んでいる場合には

勉強をさぼっているということが見抜けてしまうくらいポピュラーな話です。

 ですが学校の漢字のテストで遺言を「いごん」と書けば、×にされます。

実際に誤りとされたのを見たことがあります。

(前後の文章にもよりますが)厳密には誤りではないのに

誤りになってしまうのは

 学校の教師が専門用語を知らないということもありますが

初等教育の場で法律用語の読みなどはマスターする必要がないからです。

指導の目的が違うからです。

 だからもし、報道で首長を「くびちょう」と当然のように読むならば

学校でも遺言を先生が「いごん」と読んでもOKということになってしまわないでしょうか。

さらに遺言(いごん)は正しい読み方であるのに、首長(くびちょう)は正式に認められた読み方でさえないというのが、この話の大きな問題でもあるように思います。

 話し言葉というものは

聞く相手があって発せられるものであるのが基本ですから

自分たちの狭い世間で、相手のことを考えもせず

勝手に言い方を変えていくことには違和感があります。 

聞き手のことを考えて話す

 何かを発表する時には

できるだけ聴衆の立場に立ち

わかりやすい表現をすることが、最低限の基本として求められます。

 小学校の国語の教科書などにも

「聞き手が知らない言葉を使う時は、必ず説明をして使う」

といったことは書かれています。

テレビに登場するコメンテーターや

政治家の先生が

よもやこのことをご存じないとは思えないのですが…。

 「正しい言葉を使いましょう」と言うような

学校の先生の言うような事は言いたくありません。

でも、

「相手が分かる話し方をしましょう」という事は

言ってもいいかなと思います。

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