無味乾燥な用語の羅列
歴史などの社会の科目を指導していると、「全然覚えられない」と嘆く生徒によく出会います。
話を聞くと、そもそもあまり興味がないことがわかります。
歴史に興味がない生徒にとって
「帝国主義の時代に日英同盟が結ばれ、それを背景として日露戦争が起こったが、
講和条約としてポーツマス条約が結ばれたんだね。ここ大事、テストに出るよ。
あと、小村寿太郎も覚えておいて」
などと話しても、焼け石に水です。
あとで確認しても
「ええと、日英戦争でベルサイユ宮殿だったかな(条約ですらない!)」
などと返事がくるのが落ちです。
でも、これは無理のないことなのです。
たとえば、紙の種類について興味がないあなたが
「アート紙は、上質紙をベースにグロス系の塗料を塗った用紙である」ということを覚えなさいと言われたのと同じです。
きっと覚えていられませんね。
すべての学習のベースは興味をもつことにあります。
興味がない話はその場で忘れてしまいます。
ストーリーなら頭に入る
この場合、記憶が残るようにするためには、あくまで一例ですが
日本が日露戦争に追い込まれて勝利するまでのストーリーを、たとえば次のように順に伝えます。
日清戦争で勝利した日本は、当時の欧米列強の帝国主義の中で目をつけられていて、ロシアとの対決はどうしても避けられなくなってしまったんだ。
清のバックには強いロシアがいたから、成り行き上逃げる方法がなかった。
優秀な外交政策で、当時の強国イギリスを味方につける日英同盟をなんとか結んだものの、かと言ってイギリスだって日本をすべて守ってくれるわけでもなく
本当に国家の存亡に関わる大変な戦いが日露戦争だったんだよ。
だから、国力的には到底勝てる相手ではなくかったんだけれども
① 対欧米外交での天才的な外交官である小村寿太郎の活躍
② 同盟国イギリスの影の協力が実際かなり強力だったこと
③ ロシアでたまたま革命が起こっていて国内問題があったこと
④ そしてこれは教科書には詳しく出てこないけど、日本海海戦を大逆転勝利した東郷平八郎とその天才的参謀の秋山真之の大活躍
⑤ ロシアの強力なコサック騎兵を破った、真之の兄の秋山好古によるこれまた奇跡的な大活躍などが重なって、
本当に偶然中の偶然で日本が勝利することができた。
1つでも欠ければおそらく敗戦だった。本当に運が良かったとしか言えない勝利だったんだ。
この勝利がなかったら今の日本はその時からロシア領になってしまっていて、今頃みんなロシア語をしゃべっていたかも知れない。いやおそらくそうだったと思う。
そして、これはぎりぎりの勝利だったから、当時強国になりつつあったアメリカに仲介を頼んで、勝利国の日本ではなくてアメリカのポーツマスという都市で講和条約が結ばれた。
「言ってみれば、のび太がスネ夫を一発殴って逃げて、ジャイアンが出てきて仲裁みたいな感じ」だね。
こんな感じでストーリーを知ってもらうと、無味乾燥な字面だけでない思考として記憶には残るようです。
覚えられない本当の理由
なぜ簡単な用語を覚えられないのでしょう?
それは、言語は、その背景にある思考と共にでなければ、記憶のひだに縫い込みがされないからではないかと思います。
社会科がつまらないという生徒の話を聞くと、
まだ話がよくわからないうちに、「ここが大事」とか言われて、ただマーカーを一生懸命引いているというような状況が結構見受けられます。
意味が書いてあるから覚えられると思い込み、結局忘れてしまうのです。
意味がわかっていても、言葉を百個暗記しなさいと言われてなかなか暗記をできるものではありません。
お経の丸暗記ではないのです。
*実際はお経こそ言葉の背景を知って覚えていくのですが…。
「やる気があれば覚えられる」と言う人もいますが
そんなやり方でずっと歴史を学習していけるものではありません。
人間は機械ではないのです。
たとえば、面白くてわくわくするテレビドラマの登場人物や出てくる会社の名前、レストランの名称など、別に暗記しなくても覚えてしまいますね。
そういうことです。
だから歴史が苦手だと思ったら
まず用語を暗記する前に、いったいそれがどんな話なのか
そのストーリーに興味を持つようにするのがいいでしょう。
学校の授業や塾の授業でそういう話がされていれば
暗記より先にそれをよく理解するようにします。
もしそういう機会がない場合には
今は本でもネットでも
歴史的な出来事に関するストーリーを簡単に読むことができますから
そういうのを見てみると一気に世界が広がって
勉強の面白さに気付くということもあります。
遠回りのように見えて、実はそれが一番の近道なのです。
今後も皆さんのお役に立つ情報をアップしていきます。