文字式の利用
中学の数学で文字式の利用を学習します。
等式変形であったり文字式を利用した説明であったり、苦手な生徒が続出する単元です。
いわゆる「オチ」があるような学習であって「ああ、そうか」という気持ちに割となりやすい単元なのに、なぜみんな苦手意識を持つのか不思議に思っていました。
しかし、その答えに最近気がつきました。
それは、面白いかどうかの判断をつける段階まで行く前に、用語や決まりが多くて挫折してしまっているのが原因だということです。
たとえば
偶数と奇数の和は奇数になる。このことを文字を使って説明しなさい。
答え m、nを整数とすると、偶数は2m、奇数は2n+1と表される。
それらの和は2m+2n+1だから2(m+n)+1
m+nは整数だから2(m+n)+1は奇数である。
こんな具合です。
数学に精通しているものであれば、「ふむふむ。なるほどね」とわかりますが
初学者にこれを見せても何を言っているやらわかるはずもありません。
①なぜいきなりm、nが出てくるのか?a、bではだめなのか?
②偶数ではmを使うのに、なぜ奇数はmを使わずnを使うのか?
③m+nは整数だからとあるが、その理由は書かなくていいのか?
④2m+2n+1だから2(m+n)+1と変形してあるが、なぜ?
⑤2(m+n)+1だとどうして奇数なのか?
ツッコミどころ満載です。
一応解説をしておきますと、
①a,bでも何でも構いません。任意の文字でOKです。
②同じ文字で偶数と奇数を作ると途中で4n+1になり説明困難になるからです。理屈としては別の数だからということになりますが、簡単に言うとやりにくいからです。
③整数と整数の和は整数になるからです。ここはわかりきっているから省略なのでしょうが論理的には理由がいるような気もします。
④共通因数の2でくくる因数分解を一部で行っています。ただ因数分解は3年生で学習するのにここだけそれが2年生で登場するため、ほとんどの生徒はここで訳がわからなくなります。体系的な指導カリキュラムに問題がある気がします。
⑤m+nの部分が整数なので結局2n+1(この場合のnも整数)と構造が同じであるから奇数の2×(整数)+1 の形を満たすからです。
結論から言うと
「勉強を嫌いにさせたい、自分は数学が大好きで得意な人が作っている」単元や教科書の内容としか思えないのです。
説明も何もかも「わからない初学者の好奇心を削ぐ」ものである気がします。
こんな問題はどうでしょうか?
ある中学校入試でずっと昔に出題された問題です。
はじめの3つの式からきまりをみつけて▢にあてはまる数を入れなさい。
1×2×3+2=2×2×2=8
2×3×4+3=3×3×3=27
3×4×5+4=4×4×4=64
9×▢×▢+▢=▢×▢×▢=▢
▢×▢×▢+▢=▢×▢×▢=1000000
どうでしょうか?難しそうだからイヤだなあと思ったりしますか?
私は大変な良問だと思っていますが、一見してクイズのようでもありながら
考える力を見る優れた問題であると思います。
答えになる最後の二行は
9×10×11+10=10×10×10=1000
99×100×101+100=100×100×100=1000000
となります。
理屈はわからないけど「ああ、なるほどね」と感じる人が多いのではないかと思います。
「算数おもしろい!」って言う気持ちは、こういう考える問題から生まれてくるのではないかと私は思います。
そしてその後に初めて、「この理由はね・・・」という種明かしという順番になるというのが、一番自然な流れではないでしょうか。
ちなみにこれを文字式によって説明すると
冒頭の1×2×3+2の部分の数の真ん中の数(2)を文字に置き換えてnとすると
1×2×3は(nー1)×n×(n+1)で表すことができます。
1は2より1つ小さいのでnー1で
3は2より1つ大きいのでn+1です。
そして全体をそういう文字式で置き換えると
(nー1)×n×(n+1)+nという式になります。
数学的に書くとn(nー1)(n+1)+nです。
これを計算していきます。
まず(nー1)(n+1)の部分は展開するとn2ー1
したがってこの式全体を因数分解するとn(n2ー1+1)となり
これを簡単にするとn3となります。
そうするとnはこの場合2でしたから、この式は23つまり2×2×2と同じということになるのです。
ただ、こうして文字式で説明すると、なかなか大変なことになりますね。
聞き方が悪い
ではもしこういう文字式の考え方が大切だと思って、問題として初めからこう書いてあったらどうでしょうか?
3つの連続する数の積にその連続する数の真ん中の数を加えた和はその真ん中の数の3乗に等しくなる。この理由を文字式の決まりを使って説明しなさい。その際には真ん中の数をnとして説明すること。
数学が大好きな人には楽しいでしょうが、初学者には嫌がられることを保証します。
中学受験では楽しく考えられる優れた問題として出題されるのに、こんな風に出題の形が違うだけで勉強を嫌いになってしまう可能性を引き出してしまうなんて、数学を教えたりその単元や説明を工夫することも、なかなか大変かも知れませんね。
願わくば子どもたちに「学ぶ楽しさ」と言うものを与える試みを、教えることに関わるすべての大人たちが絶え間なく行って欲しいものだと思います。
数学の天才や社会をより良く変える未来の科学者たちが生まれてくるかどうかは、こういうちょっとした違いによって決まってくるのではないかと思います。
中2の数学を教えている先生方、「文字式の利用」を生徒がなかなか理解できないのは、本当に生徒の努力が足りないためかどうか、もう一度教科書をよく読み直して指導計画を立ててみることをお勧めします。
数学も算数も本来は、本当に楽しい勉強なんです。