【万葉と富士山の雪】「富士の嶺に降り置く雪は六月の・・・」

富士山の雪っていつ消えるの?

 私たちの国を象徴するような山であり、古くから畏敬や信仰の対象ともなって来た富士山ですが、イメージとしては「頭に雪をかぶせた山」という姿がポピュラーです

 だから夏に富士山に行ってみると雪が消えていて、ちょっとがっかりしてしまったりもします。地元に住んでいる方以外は富士山の雪がいつごろ消えるかは知らない方がほとんどだと思います。

 先日万葉集と富士の記事で、富士山を称える長歌をご紹介しました。

この歌の反歌に実は富士山の雪が消える時期を歌ったものがあるのです。

雪の消える時期を歌う短歌

 この長歌に対する反歌は二つあります。

一つ目の歌に富士山の雪が消える時期が歌われています。

富士の嶺(ね)に 降り置く雪は 六月(みなづき)の 十五日(もち)に消ぬれば、その夜降りけり

訳 富士山に降る雪は、(旧暦)六月十五日に消えるのですが、その夜からまた降り始めるのです。

みなづきは「水無月」で六月の異名です。 また、陰暦で月の十五日を「もち」と呼んだため、読み方は「もち」となります。

この歌の背景なんですが、『駿河国風土記』という書物によると、「富士山の頂の雪は(旧暦の)六月十五日に消えて、その夜にまた降りだして積もる」との伝承があります。

この歌はこの伝承をもとにして詠まれたのではないかと言われているのです。

そこで素朴な疑問が生じます。「富士山の頂の雪はそんな時期に消えるのか」という疑問です。

富士山の雪

 疑問に思って調べてみました。

大体例年9月~10月初めくらいに初冠雪が見られるようです。そして一番雪がたくさんあるのが実は4月くらいで、その後順に溶け始めて大体8月中にはすべて消えることが多いようです。

私たちが雪について抱いているイメージとは当然のことながらだいぶ違う時期に雪が積もったり消えたりしているんですね。

いわば特別な情報なので、見ている人の気持ちも私たちと同じだったのではないでしょうか。

万葉のこの歌に詠まれたのも頷けるところです。

旧暦の6月は今の暦では6月下旬から8月上旬ということですから、富士山の雪が消える時期も今と同じということがわかります。

二つ目の反歌

もう一つの反歌は、富士への畏敬の念を歌う反歌です。

富士の嶺(ね)を 高み畏(かしこ)み 天雲も い行きはばかり たなびくものを

訳 富士山は高くて恐れ多いので、雲も行くことを遠慮してたなびいています。

反歌と言うのは①長歌の意味の要約や②長歌の内容への補足、あるいは③比較的客観的に事を叙した長歌に対し詠嘆するものなどが比較的多いようですが、これなどは③にあたります。

長歌を聞いて思う事は、やはり富士山は素晴らしいという感想だと思いますが、この歌には「そうだ。そうだ。その通り」という賛成の気持ちが表れている気がします。

万葉集というと、ずいぶん昔の古典という気がしている人が多いと思いますが、平安時代などの和歌集と比べて、素朴な人々の気持ちや自然の様子が描かれていて、共感できる部分も多いと思います。

ぜひ皆さんも万葉集を読んでみてください。

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