「課題の分離」
オーストリア出身の心理学者アルフレッド・アドラーは、フロイトやユングと並び欧米では有名な学者で、個人心理学(アドラー心理学)の創始者です。
近年「嫌われる勇気」 岸見 一郎氏・古賀 史健氏著 によってその考え方が紹介がされ、大変話題になっています。
そこで注目すべき考え方として「課題の分離」というものがあります。
「課題の分離」を簡単に説明すると、
自分の課題と他人の課題を分け、コントロールのできない他人の課題には踏み込まないことが人間関係の上ではかなり重要で
これをしっかり行うことができれば人は様々な苦しみから開放されるというものです。
そもそもアドラーによれば、私たち人間には交友の課題、仕事の課題、愛の課題といった課題があるとされますが、
人間が抱える問題は、すべて対人関係上の問題である以上、どうしても自分の課題と他人の課題というものが交わってくる局面があります。
その局面で、多くの人は自分の課題と他人の課題を分離しておらず
そのために、苦しみや人間関係のトラブルを生じさせているというのが真実のようです。
本人が動かない限り変化は起きない
以前も書いたことがありますが、学習習慣が悪い生徒がそれを変えていくとき
生徒自身が学習習慣を変えるという意識を持たないうちは何も変わらないことが多いです。
だからモチベーションがとても大切になります。
悪い学習習慣を変えていくのは、結局生徒本人だからです。
学校の先生も塾の教師も親も、本人が動かない限りどうしようもありません。
これは正に生徒本人の課題です。
しかし生徒の感想はこんな感じかも知れません。
「先生が言っているから、やらないといけない」
「やり方を変えないと叱られるからやる」
完全に他人任せの発想です。
一方、周りの人間の発想は、得てしてこのようになります。
教師「自分が何とかあいつを変えて見せる」
親「考え方を変えさせないと…」
どちらもかなり子どもの領域に踏み込み過ぎている感じです。
どうでしょうか。
お互いにピントがずれていることに気が付きましたか?
生徒の課題
まず本人の課題は、学習の効果を上げて成績を伸ばすことのために、普段の学習を見直していくということにあります。
その際に先生も親も、実は直接関係がありません。
見直していく際に、やり方のヒントをもらうために必要なだけです。
だから、「先生が言っているから」とか「叱られるから」ということを動機にしている時点で失敗が予定されています。
自分の課題に直面しようとさえしていないからです。
周囲の課題
次に、教師の課題は、実は生徒を変えること自体ではないと思います。
私たちは誰でも、「他人を変える」ことはできません。
教師と生徒、親と子供であっても究極のところ、直接相手を「変える」ことは容易ではありません。
できると思うのは、少々自信を持ちすぎかもしれません。
私たちにできるのは、「他人が変わる」ための手伝いをすることだけです。
だから「変えて見せる」と考えるのは、他人の課題に踏み込んでしまっていることになります。
上手く行かなければ「生徒が駄目だ」と思い感情的になってしまい、更にもっと上手く行かなくなる危険もあります。
「出来ること」と「してはいけないこと」を見分けることが必要です。
教師の役割は、生徒が「変わる」ための環境を作ったり、方法をアドバイスして、生徒が自分で「変わる」ヒントを与えることにあると思います。
「変える」ことではなく、「変わる」ための方法を教えることがその役割なのです。
そして生徒が「変わる」か「変われないか」は「他人の課題」なので、
全力で対策を立ててあげた後は冷静に推移を見守るのです。
冷静に見守っていれば、生徒が変わってくれなかったときも、次の手を考えていくことができますが、
「変えよう」と思って「変わらない」となれば、やはり感情的になったりする流れになっていく可能性が高くなってしまい、途端に人間関係の問題に話が移行してしまいがちです。
親の場合はなおさらです。
教師は第三者的な立場ですが、親子であればもっと感情が入ってしまいがちです。
残念ですが、親子であっても子どもの考え方を直接「変える」ことは難しいと思います。
ただ、子どもが自分で「変わる」ための環境づくりはできます。
たとえば、色々な質問をしてみます。
「どうして失敗したと思う?」
「どうやれば良かったかな、お母さんに考えを言ってみて」
「そう、じゃあもう一回やってみるか」
「応援するね」
という感じではどうでしょうか。
本人は自分で「変わる」かも知れません。
子育てや教育の場面でこそ重要な「課題の分離」
子育てや教育というのは
「人を創る」
というイメージがどうしても強いために
子どもを良い方向に変えていくことを、ある程度強権的にやっていくことが一番重要だと思ってしまいがちです。
しかし割と多くの方が、子ども自身のゾーンに踏み込み過ぎて失敗をしてしまっていることがあるように思います。
「ここまでは、自分が子どもにしてあげられること」という限界を意識することが、もどかしいように見えて実は上手く行くコツなのかもしれません。
「ここから先は本人の問題」として
どんなに冷や冷やしても暖かく見守るという気持ちが、次の一手につながる気がします。
踏み込み過ぎて、自分も子どもも感情の渦の中に入ってしまい引き返せなくなる、
そんな状況を避けることは、未来へ向けて何より重要なことのように思います。
皆さんも身の回りで
「他人の課題まで自分が踏み込んでしまっていないか」
そして
「そのことで自分が大変になってはいないか」
を一度振り返ってみると良いのではないかと思います。
子どものことを思えばこそ、
「かわいい子には旅をさせる」
という覚悟が必要なのかもしれません。
親や教師にできることは、良い旅になるようにしっかりと準備とアドバイスをしてあげることではないでしょうか。
旅に一緒について行ったり、自分が連れて行くのではないのです。
今後も皆さんのお役に立つ考え方をアップしていきます。