さあ問題を解くぞ!
試験でも自分で学習をするときも、生徒は「さあ問題を解くぞ!」と意気込んで問題を解き始めます。
そして「あっこれは習ったあれだ!」と解答を次々に書いていきます。
素早く解く生徒は、時間よりもだいぶ早く仕上げてしまいます。
慌てて問題を解いた後日答案を返されて驚くことになります。
そしてこんなやり取りが行われます。
「先生、これはなぜ間違いなんでしょうか?こたえは『密度』ですよね」
「よく問題文を読んでごらん。問題文はこうなっている。『質量を体積で割って求められるのは密度だと言えるか』だね」
「だから正解は『言える』だよ」
笑い話のようですが、これは本当によくある間違いなのです。
読解できないのに回答は上手くできる
国語の読解が苦手な生徒は、問題文を読んでも問いの指示とは全く違う答えを書いてしまったりしますが
たとえば、その生徒に口頭で、「昨日朝から夕方までの間で、自分が見た赤い色をしたものについて、その形や特徴をたとえを使って説明してみて」というようなかなり複雑な質問をしても
「ええと、まず最初に見たのはリンゴです。形は丸に近いけどどちらかというとコップのように上の方が下よりも少し大きくなっている形です。赤と言いましたが、すべて赤という訳ではなく色が薄くなっている所や黄色っぽい場所もあります。そして、次に見たのは・・・」などと、きわめて正確で、かつ質問の指示に寸分の狂いもなく回答をすることが出来たりします。
仮にもしもこの質問が文章で書かれていて、記述で解答するテストであれば、このように正確に答えることはできなかったに違いありません。
読み取りのやり方の指導をしていて気づくことは、このように、文字になっている読解問題については、さっぱり答えられない生徒も、口頭だと別人のように答えられる場合がかなりあるということです。
読み取り力のなさの正体は、この現象に顕著に表れているといってもよいでしょう。
彼らは「問題文を読む」ということと「記述をする」という行為ができないのであって、「聞かれたことがわかれば、回答は正確にできる」のです。
問題文を読んでいない生徒たち
ある時読解問題の指導をしていて、こんな光景を目にしました。
「問い」を見ていたその生徒は、不意にシャープペンシルを紙面になぞらせながら、「問い」の周りの文章にいくつか線を引きました。
そしておもむろにその線を引いた部分に書かれていることを、答えとして書き始めたのです。
おそらくいつも「周りを読むと答えが隠されているよ」とか、「問いの周りに線を引きなさい」と言われているのでしょうが、肝心の問題文の詳細まではよく読まないで解答を始めたのには、大変驚きました。
また別の例を挙げると、普段口頭では、非常に正確な受け答えを出来る生徒が、文章題でどうしても解答と全然方向性の違う事を書いているので、
見かねて、「この文章ではこういうことを聞いているよ」と言う形で、問いの内容を良くわかるように口頭に直して聞いてみました。
そうすると彼女は、正解に近い内容を口頭ですらすらと答えます。
「なんだ。わかっているじゃないか」と思って、「じゃあ今話した事を頭に入れて答えを書いてみて」と言ってから、しばらく経って答えを確認すると
何と、相変わらず全く方向性の違う解答を書いているではありませんか。
びっくりして、「さっき話をした時に答えた事が解答だよ」というと、「あんなのでいいんですか」と彼女は答えたのです。
文章題というもの自体を勘違いしている可能性
この二つの例から、私は文章題で上手く解答できない生徒は、文章題というもの自体について、何か「途方もない勘違い」をしているのではないかと思うようになりました。
彼らは、私たちが会話でやり取りしている日本語とは別の、「特別な何か」を質問されていると勘違いしているのではないかと思うのです。
小学校でも高学年になると、「問い」の聞き方も次第に高度な形になってきます。
「山へ行ったのはだれですか」というような単純な聞き方ではなく、「なぜ山本君はそう考えたのですか」というようなものが出てきたと思うと、
そのうち、「山本君が田中君と同じように考えなかった理由と思われることを30字以内で書きなさい」とか、
「吉田さんがこのチームを見て『いやだな』と思ったことがわかる部分を15文字で抜き出しなさい」というような複雑なものになってきます。
そうなると、もう苦手な生徒としては、「何か特別の難しいことを聞いているに違いない」と勝手に思ってしまって、ろくに問題文も読まずに、解答をしてしまったりするのだと思います。
そういう状況を察知したときには、私は生徒に、「この問いが聞いていることは、簡単に言うとどういう事?口で言ってみて」というような指示をします。
そうすると、予想もしなかった「どこにも書いてないような質問」を口にする生徒が結構いて驚くことがあります。
質問の文章の意味が全く分かっていなかったのです。
そんな場合には、たとえば国語の問題集の問題文を一切読まずに、「問い」の部分だけ順に読ませて、
「この『問い』の意味はどういう事?言ってみて」
「次のこの『問い』も同じように説明してみて」というような「問い」の把握練習をしたりします。
そういうことをやっていると、次第に「問いを読む」ということの意味がわかるようになってきます。
自分と同じように読んでいるという誤解
教師が一番やりやすいミスは、「生徒もおそらく読めばわかるのだろう」という誤解や「自分と同じように読んでいる」という誤解に基づいて、アドバイスをしてしまうことです。
大半の場合、生徒は「問題文」に書かれていることもよくわからない上に、「問い」が何を言っているのかが、さっぱりわからないという状況に置かれています。
そうなると、解答が正解になる可能性は極限まで低下してしまいます。
これを回避するには、問題について答えを示して説明するだけでは全く足りません。
その前にまず
①問題文の意味はどれくらいわかっているか
②「問い」の意味は理解できているか
ということを色々な形で確認する必要があります。
これについてきちんとわかってから、初めて内容について考えるということになるでしょう。
読解力がなかなかつきにくいという事の秘密は、このように何段階にもわたって、解答する生徒が色々な取り違えをしてしまっていることにあります。
基本的には、口頭での質疑を織り交ぜながら確認をしていく事が有益だと思います。
文章題の苦手な生徒の状況を、一言で言えば「勉強不足」でも「センス不足」でもなく
それは「勘違いをしていることが多い」という事になるかと思います。
そういう観点で見直しをしてみると、状況の改善が早期にできるのではないかと思います。
今後も皆さんのお役に立つ情報をアップしていきます。